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my music 「土浦くんも今帰り?」 普通科校舎の昇降口。時刻は6時をちょうどまわったトコロ。 「ああ、お前もか。」 「うん、練習してたから遅くなっちゃった。」 偶然俺は香穂と顔を合わせた。明日は最終セレクション。 長かったようで短いコンクール期間も終わりを迎える。 「明日は頑張ろうね。」 「もちろん、手加減はしないぜ?」 こうやって話せる小さなしあわせがこれからも続くのか? それはコンクールの魔法で消えてしまうのか? 俺にとってお前は特別な存在。俺を変えてくれた人。俺の大切な人。 「あっ、じゃあ今日は急いでるから先行くね。」 「気をつけて帰れよ。」 「うんっ」 ヒラリ・・・ 香穂が小走りで校門へ向かおうとした瞬間、軽やかに白い紙が舞った。 「おい、なんか落ちたぞ・・・楽譜?」 「あ、それはっ・・!」 「愛の、あいさつ?」 確かにそう書いてあった。どう見ても音符はそのメロディを奏でる。 「ごめん、帰るとき慌ててそのまま持ってきたから・・」 「おいっ」 「じゃあね バイバイッ」 楽譜を勢いよく俺の手から取って駆けてゆく。 愛のあいさつ?最終セレクションの曲?いや、それはありえない。 あいつが今まで練習していた曲はそれではない。 じゃあ、いつ奏でる?明日?明後日?何日後?何年後? 誰の前で 誰のために 「香穂っ」 「つ、ちうらくん・・?」 思わず後ろから抱きしめてた。離したくない。 かっこわりぃ。わかってたさ。でも、 どうしても、そばにいてほしかった。 好きとかそんな感情飛び越して。 この温もりをずっと、近くで。鼓動の音を聴いていたい。 愛のあいさつだって お前の音色だって 誰にも聴かせたくない 「香穂・・・」 「梁太郎くんっ」 「なんだよ、いきなりひっついてきやがって。」 「えへへ、梁太郎くんのピアノ聴きたくなってさ。」 言われる前からピアノの前にいた俺。 コンクールが終わったあと、屋上から愛のあいさつが聴こえた。 焦って引き止めた俺はなんだったんだ。 最初からあいつは俺のために弾く予定だったんだとさ。 抱きしめたあともあいつは冷静に「明日、ね」とか言いやがって。 でもこうして今は隣りにいる。 「リクエスト言えよ。」 「じゃあショパン!」 「りょーかい。」 俺の音楽はここから生まれる (ずっとそばにいてくれよな) |