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スカーハニー 私は体育の時間のときケガをしてしまいました。 ケガはすり傷で血が少し出てただけで、たいしたケガじゃなかったけど。すりむいたソコからはズキズキと掘ら れてく。放課後。コンサートのための練習をこの程度の傷で止めるなんて嫌だか ら、練習室にあるピアノ用のイスに座ってヴァイオリンを弾いた。弾けないわけ じゃないけど足から駆け巡る痛みが集中力をぐわーっとかき消してしまう。…集 中できない。とてもじゃないけど演奏は無理だった。だから仕方なく今日はじっ としててもできる譜読みを始めた。仕方なくしても痛みが引くわけでもなく。当 然痛い。そんなこんなで痛みと戦ってたら時計の針はあっという間に18時をさ してた。ため息をひとつ吐いてから私はカバンの中に楽譜をしまってヴァイオリ ンケースをちゃんと持って練習室を後にしたのだ。 外はすっかりオレンジで夕日 もリンゴみたいな赤で射す光はレモンとやまぶきが混じったみたいな色できれい だった。少し肌寒い風がなんとなく心地よい。ここから家まではそう遠くない距 離にある。でも今日はなぜだか遠い。本当にケガはたいしたことないのに痛みだ けはウルトラ級で困った。実は言うと歩くとき動か すたびに激痛が走る。挫いてたのかわからないけど歩くのがツラい。すごいテン ションが下がる。ここでウジウジしてても始まらないし、家に帰ろうっ。正門に 向かって歩き出したとき…。 「日野さんっ」 「加地くん?」 門の横に佇んでいる彼。全然気づかなかった。 「こんな時間まで、誰か待ってるの?」 「待ってたの、日野さんを。」 「えっ」 私約束なんかしてたかな?記憶にない。もしかして私に何か用があったのかも。 「日野さん足痛いでしょ?すごく心配で気になって放課後も練習に力が入らなくてさ」 「大丈夫だよ、たいしたことないし」 「あまり無理しないで。僕にはわかるから」 そういって加地くんは私のひざくらいまでしゃがんでおんぶしてあげると言わん ばかりの体制をとった。 「加地くん?何やってるの?」 「ホントは歩くのだってツラいんでしょ?ほらっ、遠慮しないで。僕が家までお ぶってってあげるよ」 「えっ、は、恥ずかしいからいいよっ!しかも私重いし!」 優しい気持ちはものすごーくありがたいけど誰かに見られたりしたら明日恥ずかしくて学院行けないよ! 「おぶったことなんてないから、重いかなんてわからないよ。ねっ、日野さん」 彼はこうゆうときは強いんだと思い知った。ここは甘えたほうがいいのかな?正 直なところすごく助かってる。 「お、重いけどホントにいいの?」 「いーのっ」 ふわりと柔らかく笑ったあと私を軽々とおんぶしてしまった。 「よっと、うん。軽いや」 加地くんはいい人。優しい人。私のファンだって言ってくれた人。頼りになる人 。ヴィオラが弾けるかっこいいかっこいい男の人。誰にも秘密だけど彼の背中の この輪郭と温もりに涙が出そうなくらいドキドキしてる。これはきっと私が彼の ことを意識してるから。役得なんて言わないから、せめて彼の美しい瞳に向けて Vサインをしたらどんな顔をするんだろ。 (実は彼も同じ気持ちだったりしてね) |