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コールミー 「衛藤くん!」 「…」 「衛藤くん」 「……」 「衛藤くん?」 「………」 さっきから名前を呼んでも答えない彼は、なんだか少し不機嫌だった。 「どうかした?」 「別に、」 「別にって顔してないけど何かあった?」 「何も」 「そう?…ならいいんだけど」 そうは言っても表情はさっきから全然変わらないし何もないカンジでもないし。 せっかく海岸通りで待ち合わせしたのに、なんか空気が梅雨どきみたいにどんよりしてる。 「衛藤くん…」 「…」 「何かあるなら話してほしいな…」 「…」 「衛藤く、」 「それ」 「えっ?」 「その衛藤くんって呼び方、そろそろやめてくんない?」 と言われても、衛藤くんは衛藤くんだし。他に呼び方なんて…。 「じゃあなんて呼べばいいの?」 「桐也でいいよ」 「えっ!そんなっ…」 「なんで抵抗すんだよ。あんたのほうが歳上なんだから別に普通だろ?」 「いや、そうじゃなくて急に呼び捨てなんて恥ずかしいよっ」 「恥ずかしがることないだろ?俺だって香穂子って呼んでるし」 「それとこれとはっ」 「何が違うんだよ。それに俺がそうしてほしいんだよ」 「…なんで?」 「なんでって…あんたが俺の彼女だからに決まってるだろっ」 だから恥ずかしいんだよ! 好きな人の名前はキラキラした宝物みたいで声に出すたびにドキドキしちゃうのに、 いつもなんて呼べないよ。 呼んでほしいって気持ちもわかるけど、好きだから呼べないってのもあるんだから。 「ダメ?」 「ダメ、じゃないけど、その…」 「その?」 「えっと、ね」 「…はぁ、もういいよ。呼びたくないなら無理はさせないしさ」 「えっ!?ち、違うのっ…!」 「俺はこれからあんたのこと〈香穂子先輩〉って呼ぶから」 「ええっ!なんか変なカンジがするからやめてよっ」 たしかに私は衛藤くんより先輩だし、 星奏学院に入学したらホントに先輩になっちゃうかもだけど! 落ち着かないし少しだけ距離を感じて寂しいから嫌だなぁ…。 「嫌だったら、桐也って呼びなよ」 「ずるい…」 「ほらっ」 「…桐也、くん」 「くん付けかよ。まぁそれくらいは許してやるかっ」 あぁほらダメだよ。 「いつかはちゃんと桐也って呼ばせてみせるから、覚悟してろよ?」 「香穂子」 ダメダメダメ。ほら私こんなにもドキドキしてるじゃない。 あなたに名前を呼ばれるだけで鼓動が速くなるし、 あなたの名前を呼ぶだけで吐息が熱くなるし。 そうさせるのは衛藤くんだけなんだよ? だってあなたは私の好きな人だから。 |