Why?





放課後、たまたま廊下で会った日野と一緒に帰ることになった。
その帰り道、突然彼女は変な質問をしてきた。



「ねぇ、もしも無人島に行くとしたら何を持ってく?」
「は?」
「今日クラスの子たちと話してたんだけど月森くんだったら…」
「行かない。」
「だから、もしもの話ね!そんなに深く考えないでいいから」
「君はそんなくだらない事を話している時間があるなら、練習したらどうだ?」
「うっ…」


まったく。彼女はたまにおかしな事を聞いてくる。
もしもの話をしても意味はないじゃないか。俺にはそれにどんな意味があるのかわからない。


「ちょっと気になって聞いただけなの…。私ね、今日話してたとき答えられなかった。もしも話だけど何か真剣に考えちゃって。」
「君はさっき俺に深く考えないでいいと言ったのに、君が深く考えてどうする。」
「あはは…そうだよね。でも月森くんだったら何を持ってくんだろうって思ったら知りたくなっちゃって。」
「……」
「じゃあ3つだけ!3つだけ持って行けたら何を持ってく?」
「3つ?」
「うんっ」



日野の期待を含む眼差しが痛いので、仕方なく考えることにした。



「…食料」
「食べ物は大事だよね」
「あと水」
「現実的だね月森くん」
「普通に考えただけだ」
「あともう1つは?」
「あと1つか…」
「やっぱりヴァイオリンとか?」
「ヴァイオリン?…結局は選ぶのかもな」
「月森くんらしいよ。ううん、月森くんならどんなときだってヴァイオリンと一緒だと思う」
「君なら?」
「え?」
「君なら何を持っていくんだ」


質問してきた張本人に聞かないのはおかしな話だろう。
日野は少し驚いた表情を見せたが、すぐに口元に手を当てて考え始めた。


「うーん…ナイフかな」
「ナイフ?」
「だって木を切ったりとかいろいろ役に立ちそうでしょ?」
「まあな」
「あとはなんだろう…迷うなぁ。携帯は電波届かなそうだし。」
「君は…」
「月森くん?」
「…いや」


君はヴァイオリンを持っていかないのか?

なぜか声に出すのを躊躇った。もしも彼女が持っていかないと言ったら?

こんな例え話なのに、彼女がそう答えたら悲しいと思う自分がいる。

なぜ、なのだろう。


「私あと2つ決めた」
「あ、ああ。何にしたんだ?」
「楽譜とヴァイオリン!これがあれば無人島でも練習できるじゃない?」
「それはそうだが…」
「私、月森くんと一緒に無人島に行きたいな」
「は?なぜ俺と?」
「だって練習みてもらえるし、合奏もできるし、それに月森くんもヴァイオリン持ってくんでしょ?」
「まあ…そう答えたが…」
「だったら月森くんの演奏を独り占めできるもん!こんな贅沢ないよねっ、」
「君は…」
「月森くんとなら退屈しなさそうだなぁ」



…それはこっちのセリフだ。君といれば退屈しなさそうだ。


日野がヴァイオリンを持っていかないと言ったら悲しい感情が生まれた。
日野がヴァイオリンを持っていくと言ったら優しい感情が生まれた。


なぜかはわからない。ただ、嬉しかった。



例え話に意味はない。


だが確実に俺は何かを得た感覚でいた。


なぜ、なのだろう。




君だからなのか?